第305章

「ええ、いいですよ」

 これといった前例のない展開だったが、前田南はさして気に留めなかった。

 食事が終わると、そのまま細かい条件のすり合わせが続いた。

「この後、少し場所を変えてみませんか」

 食事が済めば、通常ならそこで解散となるはずだ。

 しかし、大塚明吾には前田南を帰す気配も、あるいは自分から席を立つ予兆もなかった。

 先ほどから、大塚明吾の元には何度か電話がかかってきていたにもかかわらず、だ。

 礼儀として彼は電話に出なかったが、着信画面に目を落とした際、その眉間が微かに寄ったのを前田南は見逃さなかった。何か妙だ、と直感が告げる。

「大塚社長、申し訳ありませんが、ま...

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